不在者財産管理人とは? 行方不明の相続人がいる場合に必要なこと
- 遺産分割協議
- 不在者財産管理人とは
身内の方がお亡くなりになったとき、遺産分割をしようと思っても他の相続人の行方が分からず連絡が取れないということがあります。遺産分割協議を成立させるためには相続人全員の同意が必要ですので、行方不明の相続人がいると遺産を分けることができません。このような場合には、「不在者財産管理人」の選任が必要になります。
裁判所が公表している司法統計によると、令和3年に徳島家庭裁判所へ申し立てがあった不在者の財産管理に関する処分の件数は48件であり、不在者財産管理人が一定程度必要とされていることを伺えます。
本コラムでは、行方不明の相続人がいる場合に利用される不在者財産管理人の制度について、ベリーベスト法律事務所 徳島オフィスの弁護士が解説します。
1、不在者財産管理人とは? 必要なケース
不在者財産管理人とはどのような制度なのでしょうか。また、どのようなケースで不在者財産管理人の選任が必要になるのでしょうか。
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(1)不在者財産管理人とは
行方不明になった方(不在者)の代わりに、その方の財産を管理する者が不在者財産管理人です。
不在者財産管理人は、利害関係人や検察官の申し立てによって、家庭裁判所が選任し、家庭裁判所の監督下において不在者の財産管理や保存を行います。行方不明の方がいる場合、勝手にその方の財産を処分することができないのはいうまでもないことですが、それでは相続などの場面で大変不都合が生じます。そこで、不在者財産管理人を選任することによって、行方不明者に代わって財産の処分をしてもらうということが必要になります。 -
(2)不在者財産管理人の選任が必要なケース
不在者財産管理人の選任が必要になるのは、以下のケースです。
① 相続人のなかに行方不明者がいるケース
被相続人(亡くなった方)の遺産は、相続人(相続財産を受け取る権利がある方)が相続することになります。しかし、そのまま何も手続きをしない状態にしておくと、相続財産(被相続人の遺産)のすべては、全相続人による共有状態となります。
共有状態を解消するためには、遺産の具体的な分け方を決めるために遺産分割協議をしなければなりません。遺産分割協議には、相続人全員の関与が必要になりますので、相続人のなかに行方不明者がいる場合には、遺産分割協議を進めることができないという状態に陥ってしまいます。
もし、不在者財産管理人が選任されていれば、行方不明者に代わって不在者財産管理人が遺産分割協議に参加できるようになります。つまり、相続人のなかに行方不明者がいた場合は、不在者財産管理人を選任すれば、遺産分割協議を行えるようになるため、相続財産の共有状態を解消することが可能となるのです。
② 行方不明者との共有不動産を売却するケース
原則、共有不動産を売却するためには、共有者全員の同意が必要になります。共有者のなかに行方不明者がいる場合には、不動産売却の同意が得られませんので、そのままでは不動産の売却を進めることができません。
また、老朽化した建物を取り壊す際にも、他の共有者の同意が必要になりますので、共有者に行方不明者がいると建物の取り壊しさえもできないという事態に陥ります。
そこで、不在者財産管理人を選任すれば、行方不明の共有者に代わって、不動産売却や取り壊しの同意を行えるので、スムーズに売却や取り壊しを進めることができます。
③ 不在者の土地を購入するケース
購入したいと土地が見つかったとしても、登記簿上の所有者が行方不明で見つからないという場合には、土地の購入をすることができません。
不在者財産管理人を選任すれば、不在者財産管理人が土地の管理を行いますので、不在者財産管理人との間で売買契約を締結することで土地を購入することができます。
④ 隣地との境界確定を求めるケース
隣地との境界を決めるにあたっては、隣地所有者全員が立ち会って、境界を確認する必要があります。
隣地所有者のうちのひとりが行方不明である場合には、境界を確定することができませんので、境界確定をするために不在者財産管理人が必要になります。
2、選任されるのはどんな人? 条件は?
不在者財産管理人には、どのような人物が選任されるのでしょうか。また、不在者財産管理人を選任する際にはどのような条件を満たす必要があるのでしょうか。
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(1)不在者財産管理人になれる人
不在者財産管理人には、行方不明者の財産を適切に管理および保存することが求められますので、行方不明者と利害関係のない人のなかから選ばれます。それ以外には、特別な資格は要求されていませんので、弁護士や司法書士といった専門的な資格のない一般の方であっても不在者財産管理人になることが可能です。
不在者財産管理人選任申立の際は、申立人が不在者財産管理人候補者を立てて申し立てをすることができますが、不在者財産管理人に誰を選任するのかは家庭裁判所の判断に委ねられています。そのため、不在者財産管理人の候補者を立てたとしても、そのなかから選任されるとは限りません。 -
(2)不在者財産管理人を選任するための条件
不在者財産管理人を選任するためには、以下の条件を満たす必要があります。
① 不在者であること
不在者とは、従来の住所または居所からいなくなり、容易に戻る見込みのない人のことをいいます。数日や数週間音信不通であっただけでは不在者とはいえませんが、長期間音信不通となり、親戚や友人などに照会して行方異を捜索したものの、その所在が判明しないような場合には、不在者にあたります。実務上は、1年以上の行方不明期間が必要になることが多い傾向があるでしょう。
② 不在者が財産の管理ができないこと
不在者であっても、その人に親権者や後見人などの法定代理人がいる場合には、不在者に代わって法定代理人が財産管理を行うことができます。そのため、このような場合には、不在者財産管理人の選任は認められません。
③ 管理すべき財産が存在していること
不在者財産管理人は、不在者に代わって財産を管理および保存するために選任されます。そのため、不在者であっても管理すべき財産がないという場合には、不在者財産管理人を選任することはできません。
3、不在者財産管理人の役割・仕事内容
不在者財産管理人は、どのような役割を担っているのでしょうか。以下では、不在者財産管理人の役割や仕事内容について説明します。
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(1)不在者の財産管理および保存
不在者財産管理人の主な役割は、不在者の財産を管理・保存することです。
財産の管理とは、物や権利の性質を変えない範囲で利用または改良する行為をいい、改造に至らない程度の共有建物の改装や共有地の整地などがこれにあたります。財産の保存とは、物や権利の現状を維持するための行為をいい、建物の修繕などがこれにあたります。
不在者の財産管理および保存は、不在者管理人の本来の仕事です。したがって、裁判所の許可なく不在者財産管理人が単独で行うことができます。 -
(2)財産目録の作成と財産管理状況の報告
不在者財産管理人は、選任を受けたあと、直ちに不在者の財産調査を実施し、その結果を財産目録にまとめて裁判所に提出します。不在者財産管理人の申し立ての際には、申立人による財産目録が添付されていますが、本人ではない申立人では財産調査に限界がありますので、あらためて権限のある不在者財産管理人が行う財産調査が必要となります。
また、不在者財産管理人は、年1回、家庭裁判所に対して財産管理の状況を報告することが求められています。これは、家庭裁判所の監督により不在者財産管理人の不正を防止する趣旨で行われているものです。 -
(3)遺産分割協議の成立
不在者が相続人である場合には、不在者財産管理人が遺産分割協議に参加することができます。ただし、遺産分割協議を成立させることは、不在者財産管理人が独断で行使できる権限を越えていますので、遺産分割協議を成立させるためには、家庭裁判所の許可が必要です。
なお、不在者には、法定相続分がありますので、法定相続分を下回るような内容では、家庭裁判所の許可を得るのは難しいでしょう。 -
(4)不動産の売却
不在者財産管理人は、家庭裁判所の許可を得ることによって、不在者の財産である不動産を売却することができます。
4、遺産相続についての悩みは弁護士へ
遺産相続についてお悩みの方は、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)行方不明者がいる場合などの遺産相続方法をアドバイスしてもらえる
相続人に行方不明者がいる場合には、そのままでは遺産分割協議を進めることができません。遺産分割協議を進めるためには、不在者財産管理人や失踪宣告などの制度を利用する必要があります。また、相続人のなかに認知症の方がいる場合にも後見人の選任をしなければ遺産分割協議を進めることができません。
このように遺産分割協議を進めるにあたって支障がある場合でも、法律上のさまざまな制度を利用することによって、遺産分割協議を有効に成立させることが可能です。そのためには、多角的な視点等が必要となり、専門家である弁護士のアドバイスがあるのに越したことはないですから、ぜひ、弁護士にご相談ください。 -
(2)遺産分割の手続きを代わりに行ってもらえる
弁護士に依頼をすれば、遺産分割に関する手続きを代わりに行ってもらうことができます。遺産分割の際に必要となる、相続人調査、相続財産調査、遺産分割協議、遺産分割調停・審判だけではなく、それに付随する不在者財産管理人の申し立てや遺留分侵害額請求なども任せることが可能です。
適切に遺産分割を進めるためには専門的知識や経験が不可欠です。知らぬまま対応をして、あとから大きなトラブルになってしまったり、想像以上の相続税が請求されてしまったりするケースは少なくありません。相続財産が多いときや相続人が多数存在するときなどは、税理士と連携した対応が可能な弁護士への依頼をご検討ください。
お問い合わせください。
5、まとめ
相続人のなかに行方不明者がいる場合には、不在者財産管理人を選任することによって、遺産分割協議を進めることが可能になります。不在者財産管理人の選任は、家庭裁判所への申し立てが必要になりますので、手続きに不安がある方は、弁護士に相談することをおすすめします。
遺産分割に関する問題でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 徳島オフィスまでお気軽にご相談ください。親身になって対応いたします。
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